2009年から、ここ国立本店で新しくスタートした『本のしごと研究室』では、隔週でゲストを招いて本とのつながりを考える、『本のしごとトーク』を行っています。その『本のしごとトーク』第1回目が、1月24日に行われました。
今回のゲストは芳賀八恵さん。
芳賀さんのことを簡単に紹介すると、個人出版社「8plus(エイトプラス)」として、絵本などを出版しています。ひとり出版社ってどうやってるの?ど うやったらなれるの?といった、数々の疑問に芳賀さんご本人から伺えるとても貴重な時間となりました。
------------------------------------

「本1冊で1つの世界ができていると思うんです。」
そう語る芳賀さんは、 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科在学中に授業で1冊の絵本を作る。後に、この授業が芳賀さんの個人出版社になる大きな影響を与えることとなる。
芳賀さんの絵本作品には文章がない。視覚だけで伝える1つのストーリー。文章がない絵本は、手にする人によって思い描くストーリーは違い、同じ人でも手にとる度にストーリーは変わると思う。その度に新しい発見があるはずだ。
大学を卒業後、一度は就職するものの、「自分の絵本を作りたい」と心に決め退社。
退職後は、1作目となる透明フィルムの絵本を制作し、出版社へ持ち込む。しかし現実は厳しく、どこの出版社にも素材にコストがかかりすぎて、とても商業向きではないと、断られてしまう。
そこで、友人から「自分で作ってみたら」と言われ、自費出版での絵本制作がスタートする。
1作目となった透明フィルムの絵本は、フィルムに印刷すると膨大な費用がかかってしまうので、印刷したシールを切り抜きフィルムに貼ることとなる。もちろん、1ページずつ丁寧に手作業でだ。それも、1000部も制作したという。
「大半は自分で制作したのですが、さすがに学生のアルバイトや友人たちに手伝ってもらいました。」
そうして完成した1作目を持って、今度は雑貨店などへ1軒ずつ足を運び、売り込みに出向いた。そうして、30店舗あまりのお店と取引を始め、委託販 売というかたちで、芳賀さんの絵本が世に送り出されることとなる。
しかし、芳賀さんの心には、「書店に流通させたい」という思いがなくなるわけではなかった。

一般に書店へ書籍や雑誌を流通させるために、取次会社を経由させなければならない。しかし、そのためには商品のコードを取得しなければならない。定期刊行雑誌には雑誌コードが存在するし、不定期刊行雑誌にも6で始まるムックコードというのが存在する。書籍や文庫本などには、4で始まるISBNコードがある。ちなみに、4は日本の国番号。これはバーコードも一緒で4で始まる。
このコードは、日本図書コード管理センターで取得する事ができるが、コードを取得したからといって取次会社と取引できるわけではない。大手の取次会社ではなかなか受け入れてもらえないのが現状。地方・小出版流通センターというところが、取次会社と芳賀さんの間で仲介をしてくれている。地方・小出版流通センターと取引をするのにも、年間の刊行スケジュールや販売実績などを提出し、審査がある。
こうして初めて、一般の書店へ雑誌や書籍の流通が実現する。
芳賀さんは企画、原稿、デザイン、レイアウト、といった編集作業をし、印刷会社への入稿作業までを1人で行っている。その後、校正など の作業が加わり、印刷、製本されたものが、芳賀さんのところへ納品される。
「1人なので、営業や管理が大変です。委託販売などで置いて頂いていた商品が返品されて戻ってくると、ぼろぼろになってしまっていることも多々あります。でも、捨てられずに家で保管しています。」
一般の出版社であれば、倉庫で在庫の管理などをしている。返品されてきた商品は、カバーや帯の着いている商品であればカバーや帯だけ新しい物に交換したり、表紙を磨いたりするという検品作業が行われるが、そういった業務もすべて1人で行っている。そして、返品などの時の送料はすべて芳賀さん持ちだという。書物は冊数が増えれば重量が増すし、丁寧に扱う必要もある為、思いの他送料はかかるものだ。
「常に作品を作りたいという気持ちはあるけど、費用などの問題があって、1年に1冊か2冊出版するので精一杯です。」
そんな芳賀さんの作品が、とあるきっかけでフランスで出版されることとなったのが、ひとり出版社をはじめて4年程経った頃である。
この時、『THE NIGHT BOOK』という作品の版権をフランスの出版社へ売り、海外での印刷・製本にて、フランス語のタイトルが付いて出版された。
そして、今年2009年にはフランスでの2作目が出版される予定だという。
「フランスなどの海外の方が、こういった個人出版の書物が受け入れられやすいです。ただ、少数ではあるけど。」
海外の出版社では、アートBOOK専門の出版社も多く、日本の場合、絵本だと児童書関係の出版社になるので、やはり商業向きになってしまうし、受け入れられる門がとても狭いという。
「自分が作りたい本を、自分のために作っています。ひとり出版社とはいえ、制作にはいろんな人と出会いがあって話せて、繋がれるのが嬉しいです。そして、売れる本イコールいい本だとは思っていません。少部数でも、必要としている人の手に届けたい。それは個人だからこそできることだと思っていますし、私が個人出版社であることのこだわりでもあります。」
------------------------------------
地方での個人営業の書店閉店が急速進み、書店や書物から若者が遠ざかりつつあります。さらに、近頃は携帯電話で小説が読めるし、インターネットで簡単に本が買える時代です。書店閉店の嵐は今や地方だけの問題ではなくなってきています。
私は、ページをめくったり実際に手にとって紙質を味わうのが好きです。特殊加工された書籍に出会うと、わくわくします。
これからの時代、素敵な本と出会える場所がもっとたくさん増えるためにはどうしたらいいのか。書店でなくとも、本を買える場所はある。ただ、変わらずにあってほしいと願うのは、そこに人と本の繋がりが目に見えてあって欲しいと思うのです。
個人出版にこだわりを持ち、少部数生産を続ける芳賀さんの絵本たちが、独り歩きをはじめ、1人でも多くの人の手に渡り、ある人の本棚に収納されていく。そこには、また全く違う別の本たちもいて、本棚は日々生まれ変わって行きます。日々、新しいストーリーが生まれていくのです。
1冊でも多くの素敵な本との出会い。
たった1冊だけの大切な自分だけの本。
芳賀さんの心の本棚に収められている、素敵な絵本たちが、わくわくしながら形になる日を待ちわびているのが、伝わってきました。
<profile>
芳賀 八恵 Yae Haga
http://www.welcome-8plus.com
1975年生まれ。九州の玄関口、北九州市に生まれ育つ。
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。
2年間の広告代理店勤務の後、2000年11月より8plusの活動開始。2001年10月に出版者登録。絵本を中心とした出版物の刊行を年間1〜2冊のペースで行なう傍ら、オリジナル雑貨も制作。
2003年、フランスで開催された「サロン・ド・リーブル・ジュネス(子供のための本の見本市)」に参加。
2004年、自作の絵本『THE NIGHT BOOK』のフランス版『le livre de nuit』が、editions MeMoより出版。2009年には、同じく『Harmony』のフランス版の出版が予定されている。
8plusの絵本は、フランス、スペイン、ドイツなどでも販売されている。現在、ブックデザイン、イラストレーション、編集、執筆など、カテゴリーにとらわれず活動している。

















