2009年から、国立本店で新しくスタートした『本のしごと研究室』。
毎月隔週でゲストをお招きして、本とのつながりを考える
『本のしごとトーク』を行っています。
その『本のしごとトーク』第16回目が、9月26日に行われました。
《第16回ゲスト はた こうしろうさん》
はたさんは、様々なタッチや表現方法を使い分け活躍されているイラストレーター/
絵本作家。これまでに手がけた80冊以上の作品は、一冊も絶版にしていないという
稀有な存在です。
そんなはたさんに「絵本作家を生業として生きていく」をテーマにお話を伺い、
自らのご経験や業界裏話なども交えつつ、熱く語っていただきました。
デザインと絵本
月刊誌『ちいさなかがくのとも』(福音館書店)の表紙デザインをはじめ、
子どもの本の装丁も手がけているはたさん。
デザインと絵本の仕事は、完全に頭を切り換えないといけないといいます。
「デザインをするときは<プロデューサー>に、絵本、特に作絵を手がける
作品のときは<ブルース・シンガー>となるんです。
生身の自分の感情(憤り、怒り、悲しみ)を、大きな声でストレートに
歌う"ブルース"を歌えないと、絵本は面白くならない。」
また、いわゆる芸術活動は、人間は自由なんだということをどう表現するか
という活動だが、デザインはその対極にあるとも語ります。
「デザインには、どうしようもない定められた<枠>がある。その中でいかに
遊ぶか、ちょっとでもはみ出せるか。そのトライの繰り返しにより<枠>を
広げていくことで、自分が絵本をつくる意義がハッキリするんです。」
「どういう風にしたら、ちょっと見たことがないようなものにできるかを
常に考えています。今までに出ている本に負けたらダメだと。
既成概念を壊していきたい。そのために色々なタッチで描いたり、誰も
やったことない技法を用いたりしています。」
鮮やかな躍動感あふれる激流が印象的な『ゆらゆらばしのうえで』
(きむら ゆういち/文、福音館書店 2003年)も、そうしたはたさんの
こだわりが表れた作品で、テキストから3年かかって完成をみた名作です。
世界各国で訳され出版されているこの作品ですが、フランスのとある出版社
から翻訳が出たときは「デザインが常識では考えられないくらい」大胆に
改変されていてびっくりしたとのこと。
実物を対比させながら、海外のデザイン事情やお仕事についても興味深い
お話をお聞かせくださいました。

偶然性のエネルギー
「テクニック的に洗練されたものよりも、プリミティブな魅力を持っている、
どちらかといえば<稚拙>といわれるものが、ずっと好きだったんです。」
本との出会いは『エルマーのぼうけん』(ガネット/作、福音館書店 1963年)、
そしてチャールズ・M・シュルツの『ピーナッツ』を経て、中学生のときに
『はせがわくんきらいや』(長谷川周平/作、温羅書房 1993年)の生々しく、
荒削りな魅力に衝撃を受けます。和田誠氏の絵も好きだったそうです。
一時期「カッコいい」イラストレーターになりたかったはたさんが、実は
自分はシンプルで味のあるもの・偶然性を感じさせる絵が好きなのだと
自己認識したちょうどその頃に、絵本を作る仕事を引き受けたことが、現在の
絵本作家としての活動につながっていきます。
「自然の中の<偶然性>の生むエネルギーは、生命力があり魅力的です。
作品を作る時も、自分のテクニック半分・偶然性のエネルギー半分で
やっている。コンピューターで作り上げたものであっても、必ず線は
鉛筆か万年筆でひくようにしているんです。そうすれば、決して薄っぺらい
ものにはならない、深みのある線がひけます。結局その方が早いし、綺麗だし、
エネルギーがこもって得です(笑)」
新しいものに挑戦しながらも、自らの好きなものについては、誠実であること。
はたさんの作品が長く愛されている理由には、シンプルで強い信念がありました。
職業としての絵本作家
「絵を描く人=絵本作家。逆に、絵本を作っていても絵を描かない人は、
絵本作家ではないんです。」と、はたさんは言い切ります。
絵描きがどれだけ絵をふくらませていくかで、絵本がよくなっていく。
だからテキストは別の人が担当する場合でも、アイディアを出して
変更をしていくことも、しばしばあるそうです。
「絵本を、映画を作るような気持ちで作っています。でも、絵本作家というのは、
映画監督よりも忙しい。アングル、スタイリング…全部やらなくてはいけない
ので大変だが、逆に言うと全部自分でやれる醍醐味があります。
全体の構成を考えているのが一番楽しいですね。読者を手の平の中で、
どのように動かしていくか。そこが面白い。
1冊を読んだ後の、読後感というんですか。そこでクオリティを評価してもらって
いると思うんですよ。もちろん、絵本なので絵でもサービスしているつもりです。」
自分の中にある基準があって、ベストをつくす。
100%を超えるものを作ろう、と。
絵本作家に転身してからの10年間は、来る仕事を一切断らず、休みも月1日、
記憶がないほど働き、過労で倒れてしまいます。
絵本を作ることでご飯を食べていくのはとても難しいことだと、その厳しさを
身をもって体験したはたさんですが、
「それでも、楽しいですよ。やっぱり仕事は楽しい。
ビジネスとして成功しなくてはいけないけれども、やっぱり面白いものを
作っていきたい。ぐっと胸に残って、離さない、そういうものを作りたいですね。」
大人を経由して子どもへ渡される特殊な「絵本」というものは、
買っている人と読んでいる人が違うということが、価値を見定めにくくも
させている、とはたさんは指摘します。
「いずれきっと、絵本も漫画のように、あらゆる人に発信できるメディアに
なればいいですよね。絵本の可能性はまだまだあります。
もっと、見た事がないような絵本が出てくると思っています。
本来はお金とは無関係に自由に表現ができる=楽しいものが芸術ですが、
デザインや絵本は、芸術のそういった部分をコンテンポラリーとして
世の中にどう浸透させていくかが課題でしょうね」
はたさんの魅力的な関西弁の語り口に引き込まれ、大変密度の濃い
内容ながら、時間も忘れてお話に聞き入ってしまいました。
ありがとうございました!
■本日の給食■
・ほうれん草、ベーコン入りケーク・サレ
・パプリカときのこのマリネ
・3種のパテ・クラッカー添え
(かぼちゃとクリームチーズ、レバーペースト、さつまいもクリーム)
きのこに、かぼちゃにさつまいも。秋らしい味を堪能しました。
【本のしごと研究室 研究員 藤井慶子】
次回 2009年10月10日ゲストは、cocon制作室の皆さんをお招きします。

















