11月も半ばを過ぎた、ある土曜日の午後。
国立本店では、<本を作ること>の専門家をお招きして小さな会を催しました。第一回のテーマは『手で考える製本』。ゲストは製本家の都筑晶絵さんです。<紙ラボ!>の野口尚子さんの進行により、お仕事にまつわるさまざまなエピソードをお伺いしました。
製本家のお仕事は、本のカタチをつくること。「伝えたい内容」に合わせて製本方法を勘案し、手作業で綴じて一冊に仕上げていきます。いわゆる〈書店の本棚〉に並べる本は作っていません。依頼主から個人的なオーダーを受けて、制作が始まります。
製本家とひとくちに言っても、個人によってその守備範囲はさまざま。職人として、与えられたイメージをきっちり再現していくのが得意な人がいれば、装飾や製本方法を含めてデザインする人もいるのだそう。
都筑さんの場合は、どちらかといえば後者のスタイル。柔軟な発想とこまやかな技術で生み出される作品は、どこか情緒的な質感を持っています。「私を見て!」と気を惹くのが書店に並ぶ本だとすれば、「私に触れて。」とじっと見つめるのが都筑さんの本、といった感じ。
そんな彼女のお話は、静かに、しかしたしかな呼吸を感じるような、ゆったりとしたテンポで始まりました。沈黙と共に暮らしてきた人特有の語り口。それは話自体に沈黙が多いという意味ではなくて、むしろ細い糸を紡ぐようにするすると言葉は生まれる。
その迷いのなさに、潤沢な時間の中で自分との対話をじっくり重ねた痕跡がうっすらと透けて見えるような気がしました。参加者のみなさんは、その味わいをじっくり噛みしめながら彼女のストーリーを聴くことができたのではないでしょうか。
都筑さんの製本スタイルは、ヨーロッパで学んだ技法を日本に合わせて柔軟にアレンジしたものなのだそうです。フランスのルリユールという伝統的な製本技術が基礎となっています。お話の中で印象的だったのは、ナビゲーターの野口尚子さんが発したこの問いかけでした。
「今のスタイルは、学んだものをずいぶん崩していると思うけれど、それは、どうやって? 」
「フランスで製本を学んでいたときは気がつかなかったのだけれど、帰国して日本語のテキストで作ってみて、ああ、これはフランスの技術なんだってわかったんです。」
「そもそも日本はページを繰るのではなく、巻物の文化でした。そうやって発達してきた言語を西洋の技術でそのまま扱うのは難しかった。たとえば、革の表紙で文芸を読む気にはなれない、そういう感覚的なことも含めて。」
「そう感じていた時に、日本で製本の活動をしているドイツ人の女性の仕事に触れる機会がありました。彼女の作品は、本の内容から着想を得たイメージを製本に落とし込むというスタイルで、伝統的な技術から自由だったのです。」
「そこで、内容によって製本方法を自由に変えて作ることができるんだ、とはじめて知って。」
機械にはけっして真似のできない折り方や綴り方を組み合わせて、本の内容を体現するように作っていく、都筑さんの製本。その作業を支える道具はいたってシンプル。他の製本家と比べると、驚くほど道具の種類が少ないそうです。大学受験の頃から愛用しているという、赤い小箱に、使用する全ての道具が収まります。
もともとヨーロッパにはよい本をオーダーして作るという文化があります。しかし日本にはそういった文化がありません。なのに、実に気負いなく、ごく自然な感じで自分の道を作って歩いてるんだなー、と都筑さんのお話を聴きながらなんだか嬉しくなりました。
日が落ちて小腹が空いた頃に、柿屋ベーグルさんのおいしいベーグルが登場。ひと息入れながらの交流タイムも、とても楽しかったです。1人のストーリーを軸に、いろんな視点が混じり合って、はっとしたりほっとしたり。誰かの話をみんなで聴くって、よいものですねえ!
次回のワークトークは、2012年1月の開催です。いったいどんなゲストをお迎えするのでしょう? ぜひ、多くの人とこの素敵なひとときを分かち合いたいです。
お店番/村瀬

















